平安の神事「競べ馬」とは?賀茂競馬の魅力と現代競馬との決定的な違い

目次
平安の神事「競べ馬」とは?賀茂競馬の魅力と現代競馬との決定的な違い
平安の神事「競べ馬」とは?賀茂競馬の魅力と現代競馬との決定的な違い
@ creator • Click to Play Video Inline
🎵 平安の神事「競べ馬」とは?賀茂競馬の魅力と現代競馬との決定的な違い

日本古来の伝統行事として千年以上の歴史を誇る「競べ馬(くらべうま)」。現代の競馬ファンが思い浮かべる円形コースの多頭数レースとは一線を画し、平安の雅と武芸の気迫を今に伝える神事です。とりわけ京都の上賀茂神社で行われる「賀茂競馬(かもくらべうま)」は、国の平安や五穀豊穣を祈る荘厳な儀礼として、今なお多くの人々を惹きつけてやみません。

古の宮中行事から発展し、鎌倉時代の古典文学『徒然草』にもその熱狂ぶりが描かれた競べ馬ですが、その起源や独自のルール、現代競馬との根本的な違いについては意外と知られていません。本稿では、伝統神事としての競べ馬の全貌を、歴史的背景や現地取材の視点を交えながら紐解きます。

📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
  • 要点1:競べ馬は平安時代の宮中行事「端午の節句」に起源を持ち、堀河天皇の時代(1093年)に上賀茂神社へ奉納されたのが現在の賀茂競馬の始まりです。
  • 要点2:現代競馬の一斉スタートとは異なり、2頭が時間差で走る「先走(さきばしり)」と「追馬(おいうま)」のマッチレース形式で勝敗を決します。
  • 要点3:京都市無形民俗文化財に指定されており、5月1日の「足伏走馬」から5月5日の本番まで、装束をまとった「乗尻」が古式ゆかしい技を競います。

【起源と歴史】平安の宮中行事から続く「競べ馬」の意味と由来

くらべ うま

「競べ馬(くらべうま・競馬)」のルーツは、奈良時代から平安時代にかけて宮中で執り行われていた武徳殿の節会(せちえ)にあります。もともとは5月5日の「端午の節句」における宮廷儀礼の一環であり、左右近衛府の武官たちが騎射とともに馬の走力を競い合い、国の安泰と豊作を祈願したのが始まりとされています。

神事としての転換期となったのが、寛治7年(1093年)の堀河天皇の時代です。宮中で行われていた競馬の儀が上賀茂神社(賀茂別雷神社)へ奉納され、天下泰平を占う神事「賀茂競馬」として定着しました。単なるスポーツや娯楽ではなく、神前で吉凶を占い、国土の平穏を願う宗教的儀礼としての性格を色濃く宿している点が、この行事の最大の特徴です。

『徒然草』にも描かれた熱狂!貴族から庶民まで魅了した伝統の背景

くらべ うま

中世の京都において、競べ馬は身分を超えた大衆の一大スペクタクルでした。鎌倉時代末期に吉田兼好が著した随筆『徒然草』の第41段には、5月5日の賀茂競馬を見物しようと群衆が押し寄せる生々しい情景が記されています。

「五月五日、賀茂の競馬を見侍りしに、車の前に雑人立ち隔てて見えざりしかば……」と始まるこの章段では、身動きが取れないほどの人混みの中、木に登って観戦していた法師が居眠りをして落ちそうになる滑稽なエピソードが登場します。平安貴族の洗練された儀礼でありながら、都の庶民をも熱狂させた競べ馬の圧倒的な求心力が伺える貴重な記録です。

【現代競馬との決定的な違い】ルール・目的・発走方式に見る神事の真髄

くらべ うま

現在JRA(日本中央競馬会)などで開催されている近代競馬と、伝統の競べ馬には決定的な相違点が存在します。最も大きな違いは「競走の目的」「出走頭数」「勝敗の判定基準」の3点です。

現代競馬が複数頭による一斉スタートで着順やタイムを争うのに対し、競べ馬は左方(さほう・赤色の装束)と右方(うほう・黒色の装束)から1頭ずつ出走する「2頭立てのマッチレース」で行われます。コースは直線約200メートルからなる芝生の特設馬場です。

さらに発走方式も極めて独特です。2頭が並んで走るのではなく、まず左方の馬が「先走(さきばしり)」として先行スタートし、約1馬身(約1反・10メートル前後)遅れて右方の「追馬(おいうま)」が追いかけます。ゴール地点で追馬が先走との差を縮めれば右方の勝ち、差を保つか広げれば左方の勝ちという、追走距離の伸縮で勝敗を判定します。速さだけではなく、馬の瞬発力と騎乗者の駆け引きが勝敗を左右する緻密なルール設計となっています。

伝統を受け継ぐ上賀茂神社の「賀茂競馬」|京都市無形民俗文化財の重み

全国に伝わる競べ馬の中でも、最高峰の格式を保ち続けているのが上賀茂神社の賀茂競馬です。その歴史的・文化的な価値の高さから、京都市無形民俗文化財に指定されています。

馬に乗る騎手は「乗尻(のりじり)」と呼ばれ、平安時代の舞楽装束を身にまといます。左方は狛犬の紋が入った赤い装束、右方は唐獅子の紋が入った黒(緑)の装束を着用し、頭には冠を戴き、手には鞭(むち)を持ちます。千年以上の装束と所作をそのまま受け継ぎ、芝生の上を疾走する姿は、まるで平安絵巻が現実の空間に抜け出してきたかのような迫力を放ちます。

【日程と見どころ】5月1日「足伏走馬」から5月5日本番「乗尻」の勇姿まで

賀茂競馬の神事は、5月5日の本番当日だけで完結するものではありません。5月1日に行われる前哨戦の神事「足伏走馬(あしぶせそうめ)」から一連の流れが始まります。

足伏走馬では、出場する馬の走力や癖を見極めるために2頭ずつ走らせ、本番の組み合わせ(番・つがい)を決定します。実力が拮抗する馬同士をマッチングさせるための重要な選考プロセスであり、古来の知恵が息づいています。

そして5月5日の本番では、午前中の本殿での儀式を経て、午後から特設馬場で競走が繰り広げられます。馬場を清める儀礼や「美作次男(みまさかじなん)」と呼ばれる合図役の所作など、一つひとつの儀式に深い意味が込められており、疾走前の張り詰めた緊張感も見どころの一つです。

【競べ馬(くらべうま)】に関するよくある質問(FAQ)

Q1:賀茂競馬の勝敗はどのようにして見分けるのですか?
A1:先に出発した「先走(赤・左方)」を、後から追う「追馬(黒・右方)」が捉えられたかどうかで判定します。追馬が先走の馬の頭を抜く、あるいは差を詰めて並びかければ追馬の勝ち、先走が差を保ったまま逃げ切れば先走の勝ちとなります。判定はゴール付近に控える判定役(検見・けんみ)によって厳格に下されます。

Q2:一般の観光客でも賀茂競馬を見学することはできますか?
A2:見学可能です。毎年5月5日の午後、上賀茂神社の芝生馬場沿いから観覧できます。当日は大変混雑するため、安全に配慮した指定エリアからの観覧が求められます。有料の観覧席が設けられる年もありますので、事前に社務所や公式発表を確認しておくと安心です。

Q3:「乗尻」を務めるのはどのような人たちですか?
A3:古くは貴族や武士が務めていましたが、現在は神職や氏子、地域の保存会、馬術に長けた関係者などが伝統を継承しています。厳しい作法や古式の馬術訓練を重ねた選ばれし乗り手たちが、格式ある神事を支えています。

まとめ:千年の歴史を駆ける競べ馬が伝える日本の祈りと美学

平安の宮廷儀礼から上賀茂神社の神事へと受け継がれ、幾多の動乱を乗り越えて今に伝わる「競べ馬」。それは単なる古式馬術の再現にとどまらず、自然の神々に感謝を捧げ、国家の安寧を祈る日本人の精神文化そのものです。

現代のスピード重視の競技とは異なる「2頭のマッチレース」という形式や、赤と黒の雅やかな装束、そして馬と人が一体となって駆け抜ける臨場感。千年を超えて受け継がれるその勇姿は、古き良き日本の伝統と美意識の深さを改めて実感させてくれます。 (出典: くらべ うま(Yahoo!ニュース)